柳樂光隆が語る、専門性の大切さ アーティストの微細な違いを知る

柳樂光隆が語る、専門性の大切さ アーティストの微細な違いを知る

インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:寺内暁 編集:久野剛士、山元翔一(CINRA.NET編集部)

1冊の本の中でヒントを散りばめていくことで、見えてくることがある。

柳樂光隆

―多重録音/演奏で知られるジェイコブ・コリアー(Jacob Collier)に対する『JTNC6』のタッチは、象徴的かもしれませんね。

柳樂:ジェイコブへの僕のインタビューに加えて、クラシックを専門とする小室敬幸さんに「ジェイコブ・コリアーへ至る合唱曲史」のコラムを、さらに別のページで唐木元さんにもゴスペルについて書いてもらっています。英語でchoirといわれる合唱、コーラスの面白さはいろんなところにあって、しかも様々なレイヤーがある。同じクワイアという名前でもブラック・チャーチのゴスペルと、英国国教会の讃美歌は別物ですよね。

ジェイコブ・コリアー『Djesse Vol.2』を聴く(Spotifyを開く

―同じコーラスというトピックについて、『JTNC6』という1冊の中で見せるからこそ、そのレイヤーの違いも見やすいわけですよね。

柳樂:そうですね。そうしたヒントを散りばめていくと、たとえばカニエ・ウエストが最近やっていることや、ジェイムス・ブレイクが、あるいはチャンス・ザ・ラッパーがやっているようなことの微細な違いも見えてくるんじゃないか、と。

あと印象深かったインタビューは、先ほど触れたサンダーキャットと、フライング・ロータス(Flying Lotus)かな。「大人になったなあ」と思って(笑)。もっと若い頃は、ふざけてちゃんと喋ってくれないときもあったんですよ。でも今回フライング・ロータスに、彼が率いるレーベル「Brainfeeder(ブレインフィーダー)」について聞いたら、「タイムレス」であること、つまり時代を問わないものであることが僕らのレーベルの理想なんだ、というんです。

ネイト・チネンというアメリカのジャーナリストが現代ジャズをまとめた『Playing Changes: Jazz for the New Century』という本が話題なんですが、そこでもBrainfeederやフライング・ロータス、カマシ・ワシントン(Kamasi Washington)は大きく取り上げられています。おそらくこれから彼らは、ブルーノートやECMといった老舗ジャズレーベルと並んで歴史に名を刻んでいくでしょう。実際にフライング・ロータスにそういったら、まんざらでもなさそうでした(笑)。

―広く人口に膾炙するポップミュージックとジャズの関わりについて、『JTNC6』ではソランジュ(Solange)に注目していますね。彼女の『When I Get Home』(2019年)のスピリチュアルなコンセプトに焦点を当てたコラムが掲載されています。

柳樂:ビヨンセ(Beyoncé)が2018年の『コーチェラ・フェスティバル』で行ったパフォーマンス(=ドキュメンタリー『HOMECOMING』)をコインの表とすれば、ソランジュがやろうとしていることは、その裏のようなことだと思います。ソランジュがアメリカ音楽、そしてアメリカ史におけるアフロ・アメリカンのミッシングリンクやオルタナティブ性を意識していったところで、ジャズとつながったというか……。

これは自分でもまだ整理し切れていないところです。そうした多様性の話の先には、ネイティブ・アメリカンのカルチャーが重要になってくる予感がある、というのが今のところの感触ですね。『JTNC6』にはネイティブ・アメリカンと関係ある話が散在していると思います。

ソランジュ『When I Get Home』を聴く(Spotifyを開く

―なるほど。ますます拡張と掘り下げが進んでいくんですね。『JTCN』などの音楽ガイド本と、プレイリストって実は親和性が高いのかなと思います。

柳樂:そうですね。たとえば同時期に刊行された大和田俊之さん編著の『ポップ・ミュージックを語る10の視点』の中で僕は「オルタナティヴなジャズ史の試み」という章を担当していて、そのプレイリストがあるんです。ジャズピアニストの右手と左手の動きの関係について論じているんですけど、ブラッド・メルドーやロバート・グラスパーといったピアニストから始まって、そこからカート・ローゼンウィンケル、アラン・ホールズワース、ジョージ・ヴァン・エプスという、時代がバラバラのギタリストたちの楽曲へつながっていきます。ただ、こんなコンピレーションCDはビジネスを考えた場合、出せないじゃないですか(笑)。

「オルタナティヴなジャズ史の試み」プレイリストを聴く(Spotifyを開く

―コンピレーション的なまとまりではないけれど、一緒に聴くと新たな発見がある、というときにプレイリストは役立ちそうですね。

柳樂:しかも聴きこむわけではなく、たとえばジョージ・ヴァン・エプスの音色やトーンを聴いてカート・ローゼンウィンケルと比較してほしいならば、大事な部分だけ聴いてもいい。参照資料としてどんどん使っていくことができる意味でも、プレイリストの可能性を感じます。

ジェイコブ・コリアーにコーラスやハーモニーをテーマにインタビューする前も、1980年代から活動しているコーラス・グループのTake 6や、16世紀に独特なハーモニーを手がけた作曲家カルロ・ジェズアルド(Carlo Gesualdo)などをまとめてプレイリストに入れて、聴きながら作業していました。インタビューのとき、ジェイコブに「カルロ・ジェズアルドって知ってる?」と聞いて、知らないというのでプレイリストを見せたら、「すごくまとまってる! メモっていい?」といわれましたね(笑)。

『The Essential Gesualdo』を聴く(Spotifyを開く

―そうした中で歴史は紡がれ直されて、音楽は生まれ、語られていくのでしょうね。

柳樂:今世界で起こっていることを、そのまま書いていった結果として、編み直された歴史が『JTNC』には入っている気がします。そうやって、自然に歴史というものは見直されていくんじゃないでしょうか。

柳樂光隆

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商品情報

『Jazz The New Chapter 6』

2020年2月17日(月)発売
価格:1,980円(税込)
監修:柳樂光隆

SPECIAL INTERVIEW
Thundercat
Flying Lotus
Christian Scott aTunde Adjuah
Brittany Howard
Meshell Ndegeocello
ChassolJacob Collier

COLUMN
『Flamagra』と『The Renaissance』
ロバート・グラスパー『Fuck Yo Feelings』の先進性
非西洋科学的テーマに注がれる視線
ジェイコブ・コリアーに至る合唱曲史(小室敬幸)

PART1:A NEW GENERATION OF JAZZ
James Francies / Joel Ross / Jazzmeia Horn

PART2:DISC SELECTION
New Standards 2018-2020(選盤・執筆:柳樂光隆)
COLUMN:サウンド・アメリカン / アンジェリーク・キジョー / Jazz The New Chapter Ternary

PART3:VISION OF GROUND UP
グラウンド・アップ・フェス潜入ルポ
Michael League / Jason “JT” Thomas / Bob Reynoldsa musical journey:David Crosby(高橋健太郎)
Becca Stevens / Michelle Willis
Good Music Company

PART4:DRUMMER-COMPOSERS
Kassa Overall
Nate Smith
Kendrick ScottMark Guiliana
COLUMN:「音色」の探求へと進むドラマーたち(高橋アフィ)
Louis Cole
Perrin Moss

PART5:INSIDE AND ALONGSIDE THE L.A. JAZZ SCENE
COLUMN:コミュニティとシェアの文化が育んだLAシーンの背景(原雅明)
Carlos Niño
Flying Lotus
Mark de Clive-Lowe

PART6:BRING A NEW PERSPECTIVE ON SAXOPHONE
Charles Lloyd
Marcus Strickland
Braxton CookDonny McCaslin
Dayna Stephens

PART7:CULTURAL ACTION IN U.K.
COLUMN:文化的な運動として続くジャズの継承と発展
Courtney Pine
The Comet Is Coming

SPECIAL INTERVIEW
Marcus Miller
Marquis Hill
Stu Mindeman
Camila Meza

COLUMN
若手育成を支えるアメリカのジャズ教育システム
ヌエバ・カンシオンとトロピカリア
チャーチ出身のミュージシャンはなぜ強靭なのか(唐木元)
ドン・シャーリーから考えるジャズ・ピアノ史
セファルディムとアシュケナジム
ノンサッチ×ニューアムステルダムなぜ今、アンソニー・ブラクストンなのか(細田成嗣)

リリース情報

『三原勇希×田中宗一郎 POP LIFE:THE PODCAST』柳樂光隆ゲスト回

2020年3月20日(金)配信

プロフィール

柳樂光隆(なぎら みつたか)

1979年、島根・出雲生まれ。音楽評論家。『MILES:Reimagined』、21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など。

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