Spotify担当者が見た、ミュージシャンがブレイクするまでの動き

Spotify担当者が見た、ミュージシャンがブレイクするまでの動き

2019/12/24
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:大畑陽子 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

ヒゲダン、King Gnu、ずとまよなど、2019年に飛躍したアーティストの動向とは

芦澤紀子

―そういう相乗効果と同じ現象が、2019年はOfficial髭男dism(以下、「ヒゲダン」)で起きたと。

芦澤:はい。2019年3月28日に『Spotify presents Early Noise Special』というイベントを、EX THEATER ROPPONGIで開催しました。『Early Noise』を通してプッシュしてきたアーティストの中で、飛躍を遂げた方たちをセレブレートするという初めての試みだったのですが、そのうちの1組がヒゲダンだったんです。そのときのパフォーマンスをつい最近のことのように覚えているのですが、あれから10カ月と経たないうちにものすごいスターになりましたね。

―最近、アーティストがブレイクするまでの期間もどんどん短くなっている気がします。

芦澤:ヒゲダンさんは、手の届かない存在になってしまった感じです(笑)。ストリーミングの特徴は、一度曲の人気に火が付くとなかなか落ちないのと、これはあいみょんでもあった現象ですが、複数の曲が一緒に聴かれ始めるんです。たとえば「マリーゴールド」がテレビで流れると、Spotifyで検索してその曲を聴き、さらに興味を持ったリスナーがアーティストページに飛んで他の曲や、遡ってインディーズ時代の曲までチェックする、といった具合に。

『This Is Official髭男dism』プレイリストを聴く(Spotifyを開く

―まるで百科事典を開くように、一瞬にしてそのアーティストを深く知れるのはとても便利ですね。

芦澤:Spotifyは、AIがリスナーの聴取行動や嗜好を元に精度高く個人に最適化した提案を行うことも特徴のひとつです。例えばあいみょんを知らない人に対しても、AIが「この人はあいみょんを好きだろう」と判断すると、いろんな彼女の曲をプレイリストなどでおすすめするようになっていくんです。

―以前は一部のコアなリスナーだけが、レコードやCDのジャケットに記載されたクレジットを参考に関連アーティストやプロデューサーなどを調べていましたが、いまは誰もがSpotifyを通して同じようなことを気軽に体験できるわけですよね。

芦澤:おっしゃる通りです。これまでは自分でお店まで行って試聴機で聴くとか、能動的に動かないと辿りつかなかった音楽でさえも、いまはストリーミングがオススメしますし、一度聴いた楽曲はまたすぐアクセスできるようプラットホーム上に表示されます。さらに関連するアーティストや楽曲も横に表示されますからね。『My Daily Mix』や『Release Radar』『Discover Weekly』など、パーソナリゼーションによるプレイリストがあるので、新たなお気に入りのアーティストを発見しやすく、またそこから深く掘り下げることも容易にできるわけです。

―2019年はヒゲダンの他に、King Gnuや中村佳穂の飛躍も目立ちました。その辺りの動向については、どのような見解をお持ちですか?

芦澤:King Gnuは、去年のいまくらいに2019年の「Early Noiseアーティスト」に選出したのですが、その時点ですでにかなり「来ている」のを感じていました。実はかなり初期、彼らがインディーズの頃からSpotifyではプレイリストに何度もピックアップしてて、リスナーからの反応のよさをチーム内で実感していたんです。昨秋くらいから一気に再生回数がハネて上がっていたので、もはや「『Early Noise』と呼んでいいのかな?」くらいの感じではあったんです(笑)。

案の定そこからの飛躍は凄まじいものがありましたね。タイアップやドラマの主題歌などが連続して決まり、その度にアーティスト名を検索して聴かれる回数も一気に増えました。あいみょんやヒゲダンで起きた現象と同じことがKing Gnuにも起きているので、彼らも「ストリーミング時代に合ったアーティスト」なのだなと思います。もちろん楽曲のよさがあってこそですが。

『This Is King Gnu』プレイリストを聴く(Spotifyを開く

―そこは大前提ですよね。

芦澤:中村佳穂さんも素晴らしいアーティストで、ずっとイベントへの出演オファーをしていたのですが、なかなかスケジュールが合わずに今年は実現できなかったんです。でも、いまだに諦めていないので、来年は是非ともなにかご一緒できたらいいなと思っています。

中村佳穂『AINOU』を聴く(Spotifyを開く

―2019年の「Early Noiseアーティスト」で、他に印象的な動きを見せたのは?

芦澤:ずっと真夜中でいいのに。も、King Gnuと同じく1年ほど前から注目を集めていました。彼らは「インターネットから人気が広がったアーティスト」というのが特徴だと思います。米津玄師さんのようにネット発で大きな成功を収めた方も既にいらっしゃいましたし、以前から「ボカロP」「歌い手」というムーブメントはありましたが、メインストリームで成功を収める例はこれまでさほど多くはなかったと思います。

限定的な文脈で評価されていた分野でしたが、それが「J-POP」というメインストリームに食い込む一つのジャンル……「ジャンル」といっていいのか分かりませんが、一角を成してきている感覚はありますよね。

『This Is ずっと真夜中でいいのに。』プレイリストを聴く(Spotifyを開く

―「インターネットを通じて広がったアーティスト」が増え続けている背景についてはどう考察されますか?

芦澤:音楽制作の環境が変わってきたことが大きいと思います。昔はバンドを組んでプロデューサーを立て、どこかスタジオを押さえてレコーディングしたものを、全国流通させるためにはメジャーとサインする必要がありました。

時代が変わり、ラップトップ一つあれば一人で曲を作ることが可能になりました。映像ですら、ある程度の技術とセンス、そしてツールさえあれば質のいい作品が作れますし、「友達とチームを作る」みたいなことも日常的になっています。

―いまならクラスに音楽が得意な子、絵が得意な子がいればアルバムが作れちゃいますからね。

芦澤:そうなんです。そうすると、クリエイティブの純度もより高くなるというか。自分の持っている世界観をそのまま作品に落とし込み、そのまま配信も可能になりました。その変化は大きいですよね。「ずとまよ」は2019年の大きなトピックですが、ヨルシカなど他にもインターネットの文脈から面白いアーティストがたくさん出てきています。

―エマ・ウォーリンの動きも面白かったですね。

芦澤:Spotifyの強み、持ち味を発揮できるのは「グローバルに音楽を届ける」ということです。そういう意味では彼女のようにグローバルで活躍できるポテンシャルが高く、実際に『New Music Friday』のような人気プレイリストに数十カ国でリストインされるということを実現できるアーティストの活躍を後押しするのは、Spotify Japanを立ち上げたときからの目標でもありましたね。

『EMMA WAHLIN:Complete Collection』プレイリストを聴く(Spotifyを開く

Page 2
前へ 次へ

イベント情報

『FM802 30PARTY FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY 2019』

開催日:2019年12月25日(水)、26日(木)、27日(金)
会場:インテックス大阪

「Spotify Early Noise LIVE HOUSE Antenna」ステージ出演アーティスト:
25日出演:
Karin.
サイダーガール
w.o.d.
Novelbright
YAJICO GIRL
ユアネス
26日出演:
Age Factory
オカモトコウキ(OKAMOTO'S)
ズーカラデル
DENIMS
ハンブレッダーズ
みゆな
reGretGirl
27日出演:
おいしくるメロンパン
カネコアヤノ
Kobore
the chef cooks me
The Songbards
Tempalay
ネクライトーキー
料金:1日券9,500円、2日券18,800円、3日通し券28,000円

サービス情報

Spotify

・無料プラン
5000万を超える楽曲と30億以上のプレイリストすべてにアクセス・フル尺再生できます

・プレミアムプラン(月額¥980 / 学割プランは最大50%オフ)
3ヶ月間無料キャンペーン中

プロフィール

芦澤紀子(あしざわ のりこ)

ソニーミュージックで洋楽・邦楽の制作やマーケティング、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で「PlayStation Music」の立ち上げに関わった後、2018年にSpotify Japan入社。

感想をお聞かせください

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Category カテゴリー

What's "Kompass" ? コンパスとは

「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。